東京地方裁判所 昭和59年(刑わ)2391号・昭59年(刑わ)3144号・昭59年(特わ)2431号 判決
右の者に対する有印私文書偽造、公正証書原本不実記載・同行使、所得税法違反、偽造有印私文書行使被告事件につき、当裁判所は、検察官三谷紘出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人を懲役七年及び罰金二〇〇〇万円に処する。
二 未決勾留日数中一八〇日を右懲役刑に算入する。
三 右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
四 押収してある金銭消費貸借契約証書一通(昭和五九年押第一四三八号の5の一部で訴状添付の「甲一号証」と表示のある書面)及び金銭消費貸借契約証書二通(同押号の11)の各偽造部分を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 東京都中野区丸山二丁目において不動産賃貸業を営んでいた津島己喜蔵(昭和五九年六月二二日死亡。以下「己喜蔵」という。)の次女で、己喜蔵が昭和五一年ころ脳血栓で倒れて以後右事業に専従するとともに同人の財産を管理していた津島テル子(以下「テル子」という。)及び栄光商事の商号で不動産業を営み、昭和五七年にテル子の依頼を受けて己喜蔵所有の同区丸山二丁目一九五八番一ほか八筆の土地(地上の車庫、家屋を含む。以下「本件不動産」という。)の売却処分を斡旋し、その際中間の転売利益を取得していた桜井恒雄の両名から、己喜蔵及び櫻井恒雄の各昭和五七年分の不動産の譲渡にかかる所得税を免れる方策について相談を受けていたものであるが、
一 テル子及び櫻井恒雄と共謀の上、
(一) 保証債務の履行として資産を譲渡した場合に、その履行に伴う求償権の行使ができない限度において、その所得につき所得税が課せられないことに着目し、被告人を債権者、被告人の知人であった木藤米吉(昭和五五年五月五日死亡)を主たる債務者、己喜蔵らを連帯保証人とする金銭消費貸借契約証書を偽造するなどして、己喜蔵が右保証債務を履行するために本件不動産を譲渡したように仮装しようと企図し、昭和五八年二月ころ、東京都目黒区中央町一丁目九番六号モナミ荘三号室河田エイ方ほか二か所において、行使の目的をもって、ほしいままに、市販の金銭消費貸借契約証書用紙を使用し、かねて被告人が所持していた、名刺の裏面の木藤米吉の筆跡による「練馬区高野台三ノ二三木藤米吉」との記載及び「木藤」の印影並びに他の契約書の「木藤米吉」の印影をそれぞれ電子複写機で複写してこれらを右金銭消費貸借契約証書用紙の借主欄に貼付し、金額欄に、「七億五千万円」と記入し、貸主欄に被告人の氏名を記載し、その名下に被告人の印を押印したのち、これを電子複写機で複写し、更に右複写した金銭消費貸借契約証書用紙の連帯保証人欄に、津島己喜蔵及び櫻井恒雄の各氏名を記載しその名下に押印するなどしてこれを電子複写機で複写するなどし、もって木藤米吉作成名義の署名押印のある同人を借主とする連帯保証人付金銭消費貸借契約証書一通(昭和五九年押第一四三八号の5の一部で訴状添付の「甲一号証」と表示のある書面)の偽造を遂げ
(二) 己喜蔵の業務及び財産に関し、同人の昭和五七年分の所得税を免れようと企て、前記(一)のとおり同人が同年にその所有不動産を売却したのは、同人の被告人に対する金額七億五、〇〇〇万円の保証債務を履行するためであるかのように仮装しようとして、前記(一)の連帯保証人付金銭消費貸借契約証書と同一内容の契約証書写に基づき己喜蔵が右保証債務を履行する旨の起訴前の和解を行い、次いで、己喜蔵名義で被告人の銀行口座あてに合計六億五、〇〇〇万円を送金するなどし、更に、右保証にかかる契約の主たる債務者が死亡し相続人が無資力であるため右保証債務の履行に伴う求償権の行使ができないものとして求償権放棄書を整えるなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年分の己喜蔵の実際の総所得金額が八六万六一五円、分離課税による不動産の長期譲渡所得金額が四億四九三五万九七八五円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五八年三月一四日、東京都中野区中野四丁目九番一五号所在の所轄中野税務署において、同税務署長に対し、昭和五七年分の総所得金額が一三九万八三九六円でこれに対する所得税額は医療費控除等を行うと納付すべき税額はなく、分離課税による不動産の長期譲渡所得金額は所得税法第六四条第二項によって零円となるから、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第一四三八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億五四三三万六五〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れ
(三) 前記(二)のとおり、被告人に対する保証債務の履行のために本件不動産を売却したように仮装したが、本件不動産の売却代金で建築し、テル子及び同人の妹である津島ユリ子のそれぞれの所有名義となっている共同住宅各一棟の建築工事代金の出所に関する税務調査に備えるため、その事実がないのに、被告人からの借入金により右工事費を賄ったように仮装しようと企図し、昭和五八年一〇月三日、東京都中野区野方一丁目三四番一番東京法務局中野出張所において、情を知らない司法書士今西敬昌をして、同出張所登記官吏に対し、テル子、己喜蔵及び津島ユリ子ら三名が被告人から同年三月二五日、一口一億円、三口で合計三億円を借り受けた旨の虚偽の金銭消費貸借契約を登記原因とし、これに基づく連帯債務の担保として己喜蔵等が所有する別紙(三)物件目録記載の不動産に、被告人を抵当権者とし抵当証券発行特約付抵当権を設定する旨の抵当権設定登記申請書三通及び権利者を被告人とし右債務の不履行を停止条件とする賃借権を設定する旨の停止条件付賃借権設定仮登記申請書一通を提出させ、そのころ、情を知らない右登記官吏をして、右各申請書に基づき、同出張所備付けの不動産登記簿原本に、前記目録「不実登記の内容」欄記載のとおりそれぞれ不実の記載をさせ、即時これを同出張所に備え付けさせて行使し
二 櫻井恒雄と共謀の上、同人の昭和五七年分の土地の譲渡等による事業所得にかかる所得税を免れようと企て、本件不動産の転売利益を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年分の同人の実際の総所得金額が一三四三万三六四五円、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が一億九〇九一万一八〇〇円あった(別紙(四)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五八年三月一四日、東京都東村山市本町一丁目二〇番二二号所在の所轄東村山税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が一四四八万四〇五一円でこれに対する所得税額が四一二万一〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第一四三八号の6)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、昭和五七年分の正規の所得税額一億五一八五万四五〇〇円と右申告税額との差額一億四七七三万三五〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ
三 昭和五八年にテル子及び櫻井恒雄から前記第一の一の(二)及び第一の二の脱税工作の謝礼収入を得ていたところ、自己の同年分の所得税を免れようと企て、右脱税工作の謝礼収入につき、保証債務の一部履行として受領したものであるように仮装するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年分の実際総所得金額が九一五四万七三二九円あった(別紙(六)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五九年三月一四日、東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号所在の所轄目務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が二五〇万三五〇円でこれに対する所得税額が二三万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第一四三八号の8)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五三九二万九〇〇〇円と右申告税額との差額五三六九万七〇〇〇円(別紙(七)税額計算書参照)を免れ
第二 租税特別措置法第三七条による買換資産を取得期限までに取得しなかったとして所轄所沢税務署長から所得税の更正及び加算税の賦課決定を受けた新井雄二郎の義父新井三次郎の昭和五六年分の不動産の譲渡所得等にかかる所得税を免れる方策について右雄二郎から相談を受けていたものであるが、新井雄二郎及び小林利治と共謀の上、保証債務の履行として資差を譲渡した場合に、その履行に伴う求償権の行使ができない限度において、その所得につき所得税が課せられないことに着目し、小林利治を債権者、同人の知人である安藤弘(昭和五七年一〇月一〇日死亡)を主たる債務者、右三次郎らを連帯保証人とする金銭消費貸借契約証書を偽造するなどして、右三次郎が右保証債務の履行として右不動産を譲渡したように仮装しようと企図し、昭和五九年一月ころ、東京都港区新橋三丁目七番三号ミドリヤ第二ビル所在の有限会社三立企画工業事務所ほか二か所において、行使の目的をもって、ほしいままに、市販の連帯保証人付金銭消費貸借契約証書用紙二枚を使用し、その各金額欄にそれぞれ「壱億円」と記入するとともに、作成日付欄には昭和五一年一〇月三〇日及び同年一一月三〇日と各別に記入し、各貸主欄には小林利治の、各連帯保証人欄には新井三次郎及び右雄二郎の旧姓である近藤雄二郎の各氏名をそれぞれ記載してその各名下に同人らの印を押印したのち、各借主欄に「千葉県市川市市川南五-四-三安藤弘」と冒書してその各名下に「安藤」と刻した印章を冒捺し、もって、安藤弘作成名義の署名押印のある同人を借主とする金額一億円の連帯保証人付金銭消費貸借契約証書二通(昭和五九年押第一四三八号の11)を順次偽造した上、昭和五九年三月三〇日、埼玉県所沢市並木一丁目七番所在の所轄所沢税務署において、同署係員に対し、右偽造にかかる契約証書二通を真正に成立したもののように装って、前記更正及び加算税の賦課決定に対する更正の請求関係書類として提出して行使し
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一、被告人の当公判廷における供述
判示第一の各事実につき
一、証人河田信幸の当公判廷における供述
一、次の者の検察官に対する各供述調書謄本
大森誠造、金内秀夫(昭和五九年七月一七日付、同年八月四日付・全一一丁のもの)、岡保新一、滝沢十三作(昭和五九年七月一八日付、同年八月七日付)、長井昌克(二通)、真木光夫、下田裕輔、富成昭英(昭和五九年七月一九日付)、小森教尚、篠原晴信(昭和五九年七月三一日付)、海老澤徹、新田一美(昭和五九年七月一五日付)油井とし子、桜井まち子
一、中野簡易裁判所昭和五八年(イ)第二二号和解事件記録写
一、押収してある東京地方裁判所昭和五八年(ワ)第一七八四号保証債務請求事件記録(昭和五九年押第一四三八号の5)
判示第一の一の各事実につき
一、被告人の検察官に対する各供述調書(昭和五九年七月五日付、同月一四日付、同月一五日付、同月一六日付、同月一七日付、同月一九日付二通、同月二〇日付二通、同月二一日付三通、同月二二日付、同月二四日付、同月二六日付、同月三〇日付、同年八月八日付)
一、被告人の収税官吏に対する各質問てん末書(四通)
一、次の者の検察官に対する各供述調書謄本
津島ユリ子、津島房次郎、猪股キヌイ、小川水宝(二通)、池隆、渡辺瑞夫、片柳輝一、金内秀夫
昭和五九年七月一四日付、同月一九日付、同月二二日付、同年八月二日付、同月三日付、同月四日付・全一四丁のもの、同日付・全二四丁のもの)、久留茂(二通)、久留八千代、木藤稔枝(二通)、中嶋悟、木藤晃、築幸枝、藤田博、鈴木克己、津島テル子(昭和五九年七月七日付)
一、登記官作成の捜査関係事項照会に対する回答書謄本二通
一、検察事務官作成の昭和五九年九月一七日付捜査報告書謄本
一、豊島簡易裁判所昭和五五年(ハ)第七七六号民事第一審訴訟記録謄本
一、押収してある五七年分の所得税の確定申告書一袋(昭和五九年押第一四三八号の1)、保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書等一袋(同押号の2)、青色申告申請書等一袋(同押号の3)、訴訟記録一冊(同押号の12)及び念書等一綴(同押号の13)
判示第一の一の(一)、第一の二及び第一の三の各事実につき
一、津島テル子(昭和五九年七月一四日付、同月一九日付)及び櫻井恒雄(昭和五九年七月一二日付、同月一四日付、同月一五日付、同月一六日付、同月一七日付、同月一九日付、同月二〇日付、同月二二日付、同月二三日付、同月二四日付・全六丁のもの、同日付・全一〇丁のもの)の検察官に対する各供述調書謄本
判示第一の一の(一)及び(三)の各事実につき
一、被告人の検察官に対する昭和五九年一〇月五日付供述調書
判示第一の(一)の事実につき
一、検察事務官作成の昭和五九年七月二一日付及び同月二三日付捜査報告書謄本
一、東京都練馬区役所谷原出張所長作成の印鑑登録印影写
一、検察庁技官吉田公一作成の鑑定書謄本二通
一、押収してある金銭消費貸借契約証書写等一袋(昭和五九年押第一四三八号の4)
判示第一の一の(二)、第一の二及び第一の三の各事実につき
一、津島テル子(昭和五九年七月二六日付、同月二八日付、同年八月四日付、同月六日付、同月八日付)及び櫻井恒雄(昭和五九年八月二日付、同月四日付、同月七日付、同月九日付、同月一三日付)の検察官に対する各供述調書謄本
判示第一の一の(二)の事実につき
一、櫻井恒雄の昭和五九年七月五日付供述調書謄本
一、収税官吏作成の次の各調査書謄本(いずれも津島己喜蔵の所得にかかるもの)
1. 譲渡収入調査書
2. 取得原価調査書
3. 測量費調査書
4. 登録免許税調査書
5. 司法書士報酬調査書
6. 立退料調査書
7. 仲介手数料調査書
8. 謝礼調査書
9. 弁護士報酬調査書
10. 立木等撤去費用調査書
11. 収入印紙代調査書
12. 特別控除額(所法六四条二項)調査書
13. 特別控除額(措置法三一条三項)調査書
14. 減価償却費調査書
一、検察事務官作成の昭和五九年一一月六日付捜査報告書謄本
判示第一の一の(三)、第一の二及び第一の三の各事実につき
一、津島テル子(昭和五九年七月一八日付)及び桜井恒雄(昭和五九年七月一八日付、同月二四日付・全九丁のもの)の検察官に対する各供述調書謄本
判示第一の一の(三)の事実につき
一、次の者の検察官に対する各供述調書謄本
栗原敏、今西敬昌、打保庸弥、本田宗樹、阿部直、斉藤明、播磨謙之、篠原晴信(昭和五九年七月三〇日付)
判示第一の二、第一の三及び第二の各事実につき
一、被告人の上申書
判示第一ぬ二及び第一の三の各事実につき
一、被告人の検察官に対する昭和五九年一〇月九日付供述調書(全七丁のもの)
判示第一の二の事実につき
一、櫻井恒雄(昭和五九年九月一九日付、同月二二日付、同月二三日付、同月二六日付、同月二八日付及び同年一〇月一日付)、新田一美(昭和五九年八月六日付、同月九日付)、池田和隆及び滝沢十三作(昭和五九年八月七日付、同年九月二二日付・全二〇丁のもの)の検察官に対する各供述調書謄本
一、検察事務官作成の電話聴取書謄本
一、収税官吏作成の次の各調査書謄本(いずれも桜井恒雄の所得にかかるもの)
1. 売上高調査書
2. 手数料収入調査書
3. 仕入調査書
4. 支払手数料調査書
5. 給料賃金調査書
6. 利子割引料調査書
一、検察事務官作成の昭和五九年一〇月四日付減価償却費、同日付資産損失及び同日付譲渡損失にかかる各捜査報告書謄本
一、押収してある五七年分の所得税の確定申告書一袋(昭和五九年押第一四三八号の6)及び青色申告者書類つづり一綴(同押号の7)
判示第一の三及び第二の各事実につき
一、杉原由紀の検察官に対する供述調書
判示第一の三の事実につき
一、被告人の検察官に対する昭和五九年九月三〇日付、同年一〇月一日付、同月二日付、同月三日付、同月四日付(二通)及び同月九日付(全八丁のもの)各供述調書
一、次の者の検察官に対する各供述調書
富成昭英(昭和五八年九月二〇日付、同月二七日付・二通、同年一〇月三日付)、津島テル子(昭和五九年九月二一日付)、滝沢十三作(昭和五九年九月二二日付・全二七丁のもの、同月二七日付)、海谷侑宏、坪田美代子、三瀬初子、内倉政治、櫻井恒雄(昭和五九年一〇月四日付謄本、同月九日付謄本)
一、収税官吏作成の次の各調査書(いずれも三浦正久の所得にかかるもの)
1. 収入調査書
2. 租税公課調査書二通
3. 水道光熱費調査書二通
4. 旅費交通費調査書二通
5. 通信費調査書二通
6. 接待交際費調査書
7. 消耗品費調査書二通
8. 地代家賃調査書二通
9. 雑費調査書
10. 受取手数料調査書
11. 受取利息調査書
12. 雑収入調査書
13. 支払手数料調査書
14. 支払報酬調査書
15. 商品取引損失調査書
16. 利息収入調査書
一、検察事務官作成の昭和五九年一〇月四日付受取割引料、同日付訴訟費用、同日付接待交際費及び同日付雑費にかかる各捜査報告書
一、検察事務官作成の昭和五九年一一月一七日付及び同年一二月七日付各捜査報告書
一、収税官吏作成の昭和五九年九月二九日付検査てん末書
一、府中刑務所会計課職員作成の「取引内容照会に対する回答」と題する書面二通
一、押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(昭和五九年押第一四三八号の8)、昭和五八年分収支明細書一袋(同押号の9)、河田信幸宛内容証明郵便一袋(同押号の14)、判決書正本一綴(同押号の15)、判決正本送達証明申請一綴(同押号の16)、ノート(四冊)一袋(同押号の17)、判決文等(ファイナル)三綴(同押号の18)、訴訟記録等一五綴(同押号の19)、訴訟記録等四綴(同押号の20)、即決和解申立書写等一綴(同押号の21)、差押調書等一袋(同押号の22)、委任状等一袋(同押号の23)、債権譲渡通知書一袋(同押号の24)、郵便はがき写等一袋(同押号の25)及び特許願等一綴(同押号の26)
判示第二の事実につき
一、被告人の検察官に対する昭和五九年八月三日付、同年一〇月六日付及び同月八日付各供述調書
一、次の者の検察官に対する各供述調書
安藤和代、岡野準一(二通)、富成昭英(昭和五九年八月一日付)、新井三次郎、矢沢芳夫、新井雄二郎(四通)、小林利治(四通)、滝沢十三作(昭和五九年一〇月八日付)
一、検察事務官作成の昭和五九年七月二五日付捜査報告書
一、警察庁技官飯田喜一及び同石原正忠各作成の鑑定書
一、押収してある印章一個(昭和五九年押第一四三八号の10)及び金銭消費貸借契約証書二通(同押号の11)
(争点に対する判断)
被告人は、自己の昭和五八年分の所得にかかる所得税法違反被告事件について脱税の事実を争い、認容されていない経費の存在及び貸倒れ債権の存在等を種々主張するところ、関係証拠を総合すると、被告人の右主張はいずれも理由がないものと認められるが、とくに、弁護人の所論にかんがみ若干の説明を加えることとする。
一、受取割引料について
保証債務の履行を仮装するため津島己喜蔵名義で被告人の銀行預金口座あてに送金された資金を回収する過程において、被告人が津島テル子所有の預金小切手を割引き、取得した割引料について弁護人は、昭和五八年三月三〇日、額面合計一億二万円の小切手二通を現金化した際受け取った割引料は、日歩八厘の割引率で三日分として計算した二四二万円ではなく、一日分として計算した八二万円にすぎない旨主張する。
しかし、関係証拠によれば、この時割引料を差し引かれた残りの現金は被告人によって櫻井恒雄の事務所まで届けられた後同人から津島テル子に引き渡され、即日、同女宅において八千代信用金庫久米川支店の職員に預けられており、その預り金額は九七二〇万円であったことが明らかである。そして、被告人は、査察及び捜査の当初の段階で小切手二通の額面合計金額と右預り金額との差額である二八二万円又は二百数十万円の割引料を受け取っていた旨供述していたところ、後に、受取割引料は日歩八厘の計算で三日分の二四二万円である旨内訳を示して明らかにしており(検察官に対する昭和五九年一〇月四日付供述調書)、櫻井恒雄及び津島テル子の各供述内容に照らしても、受取割引料の額は少なくとも被告人の右検察官に対する供述内容どおりの額であると認めるのが相当であるから、所論は採用できない。
二、支払手数料について
弁護人は、被告人が津島己喜蔵及び櫻井恒雄の各昭和五七年分の不動産の譲渡にかかる所得税の脱税工作の仕事を仲介した大森誠造を被告人に紹介した河田信幸に支払った手数料は三〇〇万円ではなく、八〇〇万円である旨主張する。
しかし、この点につき河田信幸は当公判廷において、昭和五八年三月一四日に五〇〇万円、同日以降六月末までの二、三回に分けて三〇〇万円前後の合計八〇〇万円位の金を被告人から受け取っているが、大森誠造を紹介したことなどの謝礼として被告人からもらった金は三月一四日の五〇〇万円のうちの三〇〇万円であり、残りの二〇〇万円及びその後二、三回に分けて受け取った三〇〇万円前後の金は返済期限無期限の借金である旨明確に供述しているところ、右供述は、河田本人にとって被告人との金銭貸借関係上不利益な事実を内容とするものである上、これらの金員の使用状況(被告人からの謝礼金及び借金の一部と母親である河田エイから借りた金でマンションを購入したが、そのマンションの権利証等を被告人から渡すよう求められたので、マンションを担保に質屋から金を借り入れて被告人からの借金の一部を返済したことなど)、金銭授受の前後における河田本人の財産変動の状況及び被告人との交際の状況を述べる点において具体的でかつ客観的状況にも符合しており、十分信用し得ると考えられる。これに対し、河田に対する謝礼は八〇〇万円であったとの被告人の供述は信用できず、弁護人の主張は採用できない。
三、その他の経費の主張について
弁護人は、被告人が(一)櫻井恒雄に対し昭和五八年中に油絵等の贈り物をしたり、同人を銀座のクラブ等で接待したりして支出した合計四二〇万円、(二)昭和五八年八月に被告人の事務所の転居及び家具備品等の購入の費用として支出した合計一三七万円を経費として認容するべきであると主張するが、被告人の当公判廷における供述及びその他関係証拠によれば、(一)については、もっぱら個人的な贈答品及び遊興飲食に充てられたものであり、(二)についてももっぱら被告人の住居の変更ないし維持に伴う生活上の出費であると認められる。したがって、これらの支出はいずれも家事費にほかならず、必要経費として認めるべきものではないことが明らかであるから所論は採用できない。
四、貸金債権等の貸倒れ等の主張について
弁護人は、(一)河田信幸に対して貸付けた一〇〇〇万円、(二)西新宿物産株式会社に対する六五〇万円の貸金債権、(三)被告人の昭和五九年一二月二七日付目黒税務署長宛異議申立補正申立書添付の一覧表(其の1)番号1、同4、同6及び7、同9ないし13、同18の各債権合計一七八二万九八四八円は、いずれも回収不能であり、昭和五八年分の資産損失として必要経費に算入されるべきであると主張する。
(一)の主張について
前記のとおり、河田信幸に対する被告人の貸付金は、昭和五八年三月一四日に交付された五〇〇万円中の二〇〇万円と同日以降六月までの間二、三回に分けて交付された三〇〇万円前後の合計五〇〇万円であるところ、右五〇〇万円の貸付金に関し一部返済がなされたか否かの争いはあるが、被告人に右債権請求の意思があることは当公判廷において被告人の認めるところであり、かつ関係証拠によれば、右河田には少なくとも昭和五八年末当時返済の意思と資力があったことは明らかであるから所論は採用できない。
(二)の主張について
関係証拠によれば、被告人は西新宿物産株式会社に対し、債権額を合計六八七〇万円としたうえで、昭和五九年五月三一日に内容証明郵便物として督促状を発して弁済を催告しており、右時点においてもなお被告人が所論の債権を取立てようとしていたことは明らかであり、また同社が昭和五八年七月一三日頃不渡手形を出して営業を停止する状態になったため、以後同社に対する債権の回収が困難な状況になったことは認められるが、被告人と同社代表者との関係、被告人の同社に対する関与の状況、右貸金の性質等に照らし昭和五八年中において全く回収不能の状態に陥ったとは認められないので所論は採用できない。
(三)の主張について
被告人の当公判廷における供述及びその他関係証拠によれば、弁護人主張の各債権は、その発生原因として被告人の主張するものが古くかつ特殊なものであり、適格な証拠も存しないので、民事判決等によって確定した金額を超える部分については被告人が債権を有するとは認められない。そこで、確定した金額について以下検討する。
前記一覧表(其の1)番号1(以下単に番号4などとして表示する。)の株式会社高原牧場に対する債権は、同社の金融を仲介する契約の違約金等を請求原因とするものであるが、金額(二〇万円)、判決年月日(昭和五八年一月一三日)、執行状況(同月二七日に動産執行)等の事情に照らし、昭和五八年中に回収不能となったものとは認められない。
番号4の尾崎恭彦に対する債権は、債務者である同人が昭和五五年九月一一日に死亡し、相続人である彦坂克典に続き、同彦坂悦子の相続放棄の申述が昭和五六年五月一八日に家庭裁判所で受理されたことにより全相続人が相続を放棄し、債務を承継する者がいなくなったのであるから、右時点において回収不能となったものである。
番号6の太洋ラジカル株式会社に対する債権(昭和五二年五月二日浜松簡易裁判所において調停成立)は、その後債権による代物弁済がなされたことによって消滅したものと認められる。この代物弁済として譲渡された債権が不履行となったことの不法行為に基づく損害賠償を請求原因とするものが番号13の株式会社アコスインターナショナルに対する債権(太洋ラジカル株式会社が山和通商株式会社と商号を変え、更に株式会社アコスインターナショナルと商号を変えたもの)であるが、同債権は、前記太洋ラジカル株式会社に対する債権と関連するものであり、被告人は太洋ラジカル株式会社の前身である富士八光株式会社当時から同社に関与し、同社の代表取締役と共に私文書偽造・同行使、詐欺等の罪を犯し、後記懲役刑に処せられているところ、被告人主張の右債権は、もともと右犯行の画策に関連したものと考えられること、また被告人は、右債権を取り立てるべく、昭和五六年に至り前記のとおり太洋ラジカル株式会社の商号変更後の会社等を相手取って訴訟を提起し、昭和五七年二 二二日に一部勝訴の判決を取得していること等に照らし、昭和五八年に至り番号13の債権がにわかに回収不能となったとは認められない。
番号7の丸藤興業株式会社及び櫛引藤司に対する債権並びに番号12の株式会社丸富及び菊池正敏に対する債権は、いずれも、被告人から中野雅央を介して青野勘一に交付された五〇〇万円に関連するものであるが、押収してある訴訟記録等(昭和五九年押第一四三八号の19)中の東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一一〇一六号事件判決書によれば、右五〇〇万円は、長田政俊が被告人に交付したもので、長田から請求された中野が、五〇〇万円を長田に支払っていることが認められるから、被告人には右五〇〇万円の交付に関係して貸倒れを認めるべき債権がないというべきである。
番号9の長島士朗に対する債権並びに番号10及び11の田島勇次に対する債権は、いずれも昭和五六年から昭和五七年の間において数回にわたり両名から送金を受けて一部を回収していることが認められ、昭和五八年に至って特段の事情の変化が存したとは認められないから、回収不能になったとは認められない。
番号18の佐藤に対する債権については、昭和五八年一一月二八日に判決があったものであり、昭和五九年の春頃被告人が小林利治に取立を委せていること等に照らし、昭和五八年中に回収不能になったとは認められない。
以上、所論はいずれも採用できない。
(累犯前科)
被告人は、昭和五二年八月一八日静岡地方裁判所浜松支部で有印私文書偽造・同行使、公正証書原本不実記載・同行使、詐欺の各罪により懲役五年に処せられ、昭和五七年一一月二五日右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は被告人の当公判廷における供述、検察事務官作成の前科調書及びその判決書謄本によってこれを認める。
(法令の適用)
一、罰条
判示第一の一の(一)所為につき、刑法六〇条、一五九条一項
判示第一の一の(二)の所為につき、刑法六五条一項、六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一、二項
判示第一の一の(三)の所為中不動産登記簿原本に不実の記載をさせた点につき、いずれも刑法六〇条、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号、これらを備え付けさせて行使した点につき、いずれも刑法六〇条、一五八条一項、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号
判示第一の二り所為につき、刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一、二項
判示第一の三の所為につき、所得税法二三八条一、二項
判示第二の所為中連帯保証人付金銭消費貸借契約書二通を偽造した点につき、いずれも刑法六〇条、一五九条一項、これらを提出して行使した点につき、いずれも刑法六〇条、一六一条一項、一五九条一項
二、科刑上一罪の処理
判示第一の一の(三)の所為中不動産登記簿原本に不実の記載をさせた点はいずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であり、各不実の記載とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の最も重い別紙(三)物件目録番号2の物件の<1>抵当権設定(昭和五八年一〇月三日受付第二二四一〇号)にかかる不実記載不動産登記簿原本行使の罪の刑で処断、判示第二の所為中偽造の連帯保証人付金銭消費貸借契約証書二通を提出して行使した点はいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であり、これらの証書の各偽造とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として犯情の最も重い昭和五一年一一月三〇日付偽造連帯保証人付金銭消費貸借契約証書行使の罪の刑で処断
三、刑種の選択
判示第一の一の(三)の罪について所定刑中懲役刑を選択
判示第一の一の(二)、第一の二及び第一の三の各罪についていずれも懲役刑及び罰金刑の併科
四、累犯加重
判示各罪は前記前科との関係でいずれも再犯であるから、刑法五六条一項、五七条により懲役刑につき累犯の加重
五、併合罪の処理
刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(刑期及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項
六、未決勾留日数の算入
刑法二一条
七、労役場の留置
刑法一八条
八、没収
刑法一九条一項一、三号、二項本文
(量刑の事情)
本件は、津島テル子と櫻井恒雄が津島己喜蔵の不動産の譲渡による所得税を免れようとしたことに端を発する。すなわち、不動産賃貸業を営んでいた己喜蔵が脳血栓で倒れた昭和五一年以降次女のテル子が己喜蔵の事業に従事し、同人の財産を管理していたが、不動産の管理、処分等をめぐってテル子及び妹の津島ユリ子と次兄津島房次郎との間に対立が生じ、テル子は、己喜蔵や長兄津島藤次郎(長期入院中)の入院費や己喜蔵の下で農業に従事してきたテル子及びユリ子の将来の生活費等を安定して確保するために、己喜蔵所有の本件不動産を売却し、その資金の一部で新しいアパートを建て、その経営によって収入を得ようと考え、己喜蔵の一応の了解を得た上で、以前から己喜蔵所有のアパートの賃借人を紹介してもらうほか何かと相談に乗ってもらうなど頼りにしていた櫻井に本件不動産の売却処分の斡旋を依頼した。櫻井は、己喜蔵の不動産の管理等をめぐって前記のとおり対立があったことや、テル子ら姉妹から頼りにされ、全面的に信頼されていたことから、知人の金内秀夫を表向きの中間取得者とした形で本件不動産を売却処分したが、実際は自らが中間転売利益を取得し、その後テル子から右売却処分による己喜蔵の昭和五七年分の不動産譲渡所得にかかる所得税に関し相談を受け、自らも金内と仲違いをしたことで中間転売利益による同年分の所得税について苦慮していたため、己喜蔵及び自己の昭和五七年分の不動産譲渡にかかる所得税を免れる方策を模索していた。他方、前刑終了後、以前から同棲していた河田エイ方に止宿していた被告人は、櫻井の知人である大森誠造の経営する会社に同女の息子である河田信幸が勤めていた関係で、櫻井が脱税の方策について苦慮していることを知り、脱税工作を請け負うことにより謝礼を得ようと考え、知人の滝沢十三作に相談し、その示唆を受けて本件脱税の方法を思いつき、一連の犯行に及んだものである。
本件において被告人の考えた脱税の方法は、不動産の譲渡が保証債務を履行するためである場合には、保証債務を履行しても主債務者に対する求償権の行使ができない限度において、その所得につき所得税が課せられないという所得税法第六四条第二項の規定を悪用したものであるが、架空の金銭消費貸借契約証書を偽造し(判示第一の一の(一))、これに基づき簡易裁判所を利用して即決和解を成立させるなどした上で己喜蔵の所得税一億五四三三万六五〇〇円及び櫻井の所得税一億四七七三万三五〇〇円を免れさせたものであって(判示第一の一の(二)及び第一の二)、ほ脱額も大きく、ほ脱率も己喜蔵分が一〇〇%、櫻井分が約九七%という高率である。右一連の犯行は、大胆かつ徹底したものであり、被告人はその企画、実行の両面においてまさに独壇場とも言うべき程の主導的な役割を演じ、テル子及び櫻井から脱税工作の謝礼として合計一億五〇〇〇万円もの高額の収入を得ていたもの(同収入にかかる脱税につき判示第一の三)である。この外、被告人は、脱税工作の発覚を防ぐためであるとして判示第一の一の(三)の犯行に及んでいるが、その実は、同犯行にかかる抵当証券の売却をも企図していたことがうかがわれる上、右犯行後も同種犯行による利得を企て判示第二の犯行に及んでいたものである。このような本件事案の性質、態様、動機、経緯並びに被告人自身の脱税分に関しては未だ納税がなされていないことなどの事情に加え、被告人は、これまでにも金融ブローカーとして金融仲介等にかかる私文書偽造・同行使、公正証書原本不実記載・同行使、詐欺等の犯罪を重ねて、前科六犯を有し、本件犯行は、累犯となる前刑の執行を受け終って約三か月後からのものであること、国税局の査察をうけた以後においても櫻井らと相謀り、金内に資金を与えて逃走させ、罪をかぶってもらうよう画策するなど罪証穏滅を図っていた上、第二回公判期日に至りほぼ事実を認めるまで種々の弁解を重ねて事実を否認し続けていたものであること、しかも、自己の所得税の脱税に関しては、最後まで経費の存在及び貸倒れ債権の存在等を種々主張し、課税を免れようとの態度が明らかであり、判示第一の一の(三)の不実登記を抹消するにつき、和解金名下とはいえテル子らから四〇〇万円を受け取るなど真に反省して事実を認めたものとするには理解し難い行動が顕著であることなどの事情を総合して考えると、被告人に対しては主文掲記の刑は免れないところである。
(求刑懲役八年及び罰金三〇〇〇万円)
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小泉裕康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)
別紙(一)
修正損益計算書
津島己喜蔵
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別紙(二)
税額計算書
昭和57年分
<省略>
別紙(三)
物件目録
<省略>
別紙(四)
修正損益計算書
櫻井恒雄
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別紙(五)
税額計算書
昭和57年分
<省略>
別紙(六)
修正損益計算書
三浦正久
自 昭和58年1月1日
至 昭和58年12月31日
<省略>
別紙(七)
税額計算書
昭和58年分
<省略>